平成8年に高校生が震災を発信するという計画を立案したときは,まだインターネットが普及しておらず,器材の準備やWebページの作成方法など,まったく手探りの取り組みであった。また震災で甚大な被害を受けた地域であるために,「震災のことは思い出したくない」とか「震災などをWebページに載せて何になるのだ」というような消極的な意見があった。しかし教え子を震災で失った先生方の応援を受けて,Webページを開設することができた。
震災体験を記録・発信することについての生徒の反応は,平成9年度末
に地学選択生(78名)にアンケートを取ったところ, ◎地震の学習や震災に関するレポートを書いてよかった 80% ◎学習して震災を思い出し嫌だった 7% ◎その他 12% という結果を得た。
 ▲授業への生徒の評価(平成9年10月)
本校生徒の中には家族や友人を亡くしたり,家庭環境が大きく変わった者が多数含まれている。しかし,情報発信の意義を理解すると生徒は,つらさに堪えて記録を残すことに取り組んでくれた。
生徒作文を一部引用する。
歴史の教科書に残る出来事が,1995年1月17日に起こった。「阪神間には地震は起きない」私達の勝手な思いこみが悲劇を生んだのだ。 <中略>
私は出来ることなら震災の話はあまりしたくない。本来なら,「あの時はつらかった」とか,「お互い大変だった」と後世に伝えるべきなんだろうけど,私は出来ることなら早く忘れたい。私は住んでいたマンションは全壊したが,幸いにも家族は全員無事だった。でもあの震災でいい思い出はない。もちろん,私の家から物を出すときや,避難所でも近所の方とより親しくなれたし,いろいろ助けてもらった。あの経験は私にもプラスだったし,私自身,いいものを得たと思う。ただ,人のありがたみを,あの状況でああいう形で味わいたくはなかった。もっと楽しいときにもっと明るい状況で味わいたかった。
3年5ヶ月でアクセス3万を突破し,全国数十の小中高校で理科や防災などの授業にサイトを使っていただくことができた。この理由を分析してみる。

▲Webページへのアクセス数の変化(1996年9月〜2000年1月)
(1)情報発信に利用を絞ったこと
平成11年度まではインターネットに接続されているパソコンが1台(Macintosh Performa 5420)だけでISDN回線に接続されていた。生徒の入力作業などはスタンドアローンのPC9801FA(20台)を利用し,Webページの作成はPerforma 5420でおこなった。平成11年度に専用線とサーバークライアントシステムが導入され,生徒が入力からWebページの作成まで,EPSON M Type-FR と,IBM Homepage Builder2000を使っておこなっている。
授業ではインターネットの仕組みとウエブページについて学習した後,情報発信を主にインターネットの利用を行っている。
(2)授業で利用できるような構成・内容にしたこと
インターネット上には多くのサイトがあるが,学校での授業に直接利用できるものは少ない。それは児童生徒の利用を考えて構成されていないからである。
震災の記録を発信するにあたり,学校で理科や防災の授業で利用することを前提にして構成を組んだ。
平成12年3月現在, 「阪神淡路大震災に関する解説」 「震災当時の学校・避難所の記録」 「震災当時の生徒の体験記録」 「震災後の地域復興,こころの復興などの課題研究作品」 という構成になっている。
特に「解説」は大人向けと小中学生向けの2本立てにし,児童生徒に理解しやすいように平易な文章で震災を解説してある。これには,NIFTY SERVE「教育実践フォーラム理科の部屋」の皆さんの協力を得た。

 ▲震災直後と5年後を比較した写真
(3)サイトの存在をアピールしたこと
サイトを作っても見ていただけるようになるまで時間がかかる。そのためメーリングリスト,NIFTY SERVEの会議室,学会誌,パソコン雑誌などに存在をアピールした。またWebページ上で発信した生徒作品を毎年作品集として印刷・発行し生徒や学校関係者だけでなく広く配付している。その結果,全国より注目され多くの学校で教材として利用していただくことができた。
(4)生徒の個人情報の保護に留意したこと
兵庫県では平成9年4月に個人情報保護条例が制定され,学校からのインターネットによる発信に一定の制限が設けられている。本校では平成8年度よりインターネット上で発表することを前提にして生徒に課題を課し,生徒本人と保護者の承諾を得た後にサイトで公開している。また希望があれば匿名にしたり,内容を一部削除するなどの措置を行っている。
これまでのところ,匿名を希望した生徒は数名いるが,発表を断った生徒はいない。また保護者は震災体験の発信に協力的である。
(5)著作権に留意したこと
生徒作品は生徒本人が制作したものであれば,生徒の了承を得れば著作権はクリアされるが,課題研究などで文献を引用したり,図表などを利用するとそこには著作権が発生する。そのような場合は必ず「引用」「参考文献」などを明記するよう指導している。
Webページで発表することによって世界中から自分の作品が読まれるということで,生徒の著作権に関する意識が高まったと思う。
(6)電子メールを使った交流授業に取り組んだこと
インターネットを使った交流授業を計画したが,相手校を決めるのに苦労した。幸いNIFTY SERVEの「教育とコンピュータフォーラム」で交流先が見つかり平成9年1月に調布市立第2小学校と授業をおこなった。
防災の授業で小学校4年生が阪神淡路大震災について学習し,本校生徒の震災体験作文を読んで感想をメールで送信するというものだった。芦屋高校では生徒がそのメールに対して再び返事を送った。このようにインターネットの利点を生かし校種・学年が異なる生徒の間でも授業を行うことができた。
平成11年度に報告があっただけでも小野市立小野南中学校,神奈川学園中等部,温泉町立温泉中学校,北九州市立南曽根中学校,東京都立北養護学校・東大こだま分教室,千葉県立松戸六実高等学校などでWebページが授業などに利用され,感想などを送っていただいている。 |